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東京地方裁判所 平成12年(ワ)11755号 判決

原告 金鍾杓

右訴訟代理人弁護士 八戸孝彦

古椎庸文

被告 株式会社ロイヤルメドウゴルフクラブ

右代表者代表取締役 岩崎安次郎

右訴訟代理人弁護士 久保田敏夫

主文

一  被告は、原告に対し、四八〇万円及びこれに対する平成一二年六月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、ゴルフクラブを経営する被告に対し、同クラブを退会した者から同クラブの預託金返還請求権を譲り受けたとする原告が、右預託金四八〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠等により認定した事実は当該証拠等を末尾に掲記した)

1  被告は、ゴルフ場の経営を目的とする株式会社であり、栃木県芳賀郡芳賀町大字給部字屋敷添二六八番地六において、ロイヤルメドウゴルフクラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という)という名称のゴルフ場を経営している。

2  訴外株式会社レインボージャパン(以下「訴外レインボージャパン」という)は、平成元年一一月一七日、被告との間で、預託金四八〇万円の返還時期を預託した日の翌日から一〇年間据え置くとの約定で本件ゴルフクラブに入会する契約(以下「本件契約」という)を締結し、同日、被告に対し、右四八〇万円(以下「本件預託金」という)を預託した。

3  訴外レインボージャパンは、本件預託金据置期間経過後の平成一二年五月二四日、被告に対し、本件ゴルフクラブを退会する意思表示をした(甲三の1ないし4)。

4  訴外レインボージャパンは、前記3の退会をするや、前同日、原告に対し、本件預託金返還請求権を譲渡した(甲三の1ないし4、四の1、2、弁論の全趣旨)。

5  原告は、平成一二年五月二六日、被告に対し、同日より五日以内に本件預託金四八〇万円を返還せよとの意思表示をした。

6  ところで、本件ゴルフクラブの会則(以下「本件会則」という)によれば、預託金の返還時期は、原則として、預託したときから一〇年後であるが、「天災地変、その他不可抗力の事態が発生した場合、会社経営を円滑にするために必要かくべからざる時は会社は理事会と協議して据置期間を延長することができる」(本件会則九条但書)とされている。

本件会則九条但書に基づき、被告は、平成九年七月一日、本件ゴルフクラブの理事会と協議した結果、預託金の据置期間を更に一〇年間延長した(以下「本件延長決定」という)。(乙二、五)

7  被告は、本件延長決定等を根拠に、原告の本件預託金返還請求を拒んでいる。

二  争点

1  預託金返還部分のみ分離して返還請求することができるか。

(被告の主張)

ゴルフ会員権は、施設の優先利用権、預託金返還請求権、会費納入義務と一体となったもので、預託金返還請求部分を他から分離して返還請求権を行使することはできない。

(原告の反論)

原告は、訴外レインボージャパンからゴルフ会員権自体を譲り受けたものではないし、ゴルフ会員権から預託金返還請求権のみを分離して譲り受けたものでもない。原告は、訴外レインボージャパンが被告に対し本件ゴルフクラブを退会することによって取得した単純な金銭債権としての預託金返還請求権を取得したものである。そして、これを行使しているものである。

2  本件延長決定は有効であり、会員を拘束するか。

(被告の主張)

(一) 本件では、次の(1) ないし(3) のとおり、本件会則九条但書にいうところの「不可抗力の事態」に該当する事由が存在し、したがって、本件延長決定は有効であり、本件預託金据置期間はいまだ満了しておらず、原告の返還請求は認められない。

(1)  いわゆるバブル経済の崩壊後、不動産・株式の大幅な下落が続き日本の経済状況は未曾有の低迷状態に陥っており、全国のゴルフ会員権の相場は大幅に低下し、被告のゴルフ会員権の相場も相当低下している。

(2)  これにより、本来投資として購入したゴルフ会員権の預託金の返還を請求する会員が予想以上に増加する一方で、全国のゴルフ場においては来場者数及び一人当たりの単価の下落があり、その収益も著しく減少しており、被告もその例外ではない。

(3)  かかる経済情勢では、今後短期間の内に収益の改善を図ることは困難であり、預託金について、これを返還請求する全ての会員の請求に応じることは不可能であり、仮に応じた場合、被告の経営が破綻に陥ることは明らかである。

(二) 本件ゴルフクラブに入会する全ての会員は、本件会則の規定を承諾して入会している。そして、預託金の返還はゴルフ場の施設全体に関わることであるから集団的な性格を有している。したがって、預託金の返還問題は個々の会員との問題だけではなく、会員全体の集団的な問題と繋がっているのであって、個々の会員の承諾を得る必要はなく、会員とは会則の規定により処理されるべきである。そうすると、本件会則に従い本件延長決定がされた以上、会員としてはこれに従うことは、ゴルフ場の性格からやむを得ないところであり、原告も本件延長決定に拘束される。

(原告の反論)

(一) いわゆるバブル経済の崩壊は、本件会則九条但書にいうところの「不可抗力の事態」には該当しない。

(二) ゴルフ場使用料と比較した預託金の大きさに照らすと、預託金返還時期の据置期間を延長することは、会員の基本的な権利に重大な変更を加えることになる。したがって、会員の個別の承諾を得ることなく、本件延長決定の効力を訴外レインボージャパン及び原告に及ぼすことはできない。

3  事情変更の原則の適用があるか。

(被告の主張)

本件契約においては、次の(一)ないし(三)のとおり、契約締結時と現在とでは、その基礎事情に著しい変化が生じており、預託金返還時期の据置期間を延長する決定には合理性がある。

(一) ゴルフ場の経営のみならず、日本の経済社会情勢は、現在、著しく困難を極め、国が何兆、何十兆円という未曾有の景気回復のための資金を投じても、その状況は一向に改善されていない。この経済の破綻は、大手銀行、大手証券の破綻による金融危機、相次ぐ上場会社の倒産があり、不動産についても暴落に近い価格の破綻、それに繋がるゴルフ会員権相場の劇的な暴落は、当時何人も予測しえなかった未曾有の事態である。

(二) このような経済情勢では、預託金の返還請求をする全ての会員の要求に応じることは不可能であり、仮に応じなければならないとしたら、被告の経営が破綻に陥ることは明らかである。

(三) 本件延長決定は、右の様な事情の変更に基づき、本件契約の内容を改定したものであり、有効である。

(原告の反論)

被告が会員から据置期間経過後に預託金の返還を請求されることは、本件契約自体が当初から予定している事態であり、いわば本件契約が当然のこととして内包する事態であり、むしろこれが法律上の原則なのである。変動きわまりない現代の経済情勢の中で、ゴルフ会員権の時価が預託金の額面を常に上回るとの被告の見通しが外れたからといって、事情変更の原則が適用される余地はない。原告の主張するバブル経済の破綻は、事情変更の根拠とはならない。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件は預託金返還請求権を分離した請求か)について

前記争いのない事実等によれば、訴外レインボージャパンは本件預託金返還時期の据置期間経過後に本件ゴルフクラブを退会し、その直後に、原告に対し本件預託金返還請求権を譲り渡したことが認められる。そうだとすると、原告が訴外レインボージャパンから謙り受けた本件預託金返還請求権は、譲渡の時点で単純な金銭債権となっていたものと解するのが相当であるから、これを譲渡の対象とすることには何らの問題はない。

この点につき、被告は、預託金請求権は施設の優先利用権、会費納入義務と一体となってゴルフ会員権を構成しているものであり、それゆえ預託金部分を分離することはできない旨主張する。確かに、訴外レインボージャパンが退会することなく本件ゴルフ会員権を他に譲渡した場合には、被告の主張には首肯しうる点があるといえる。しかし、本件は、訴外レインボージャパンが被告の経営する本件ゴルフクラブを退会した後に、本件預託金返還請求権を譲渡したケースであり、このような場合には、施設の優先利用権や会費納入義務は消滅していることは明らかであり、残った預託金請求権について一体であることを論ずる余地はなく、この点の被告の主張は理由がないという他ない。

二  争点2(本件延長決定の当否)について

1  前記争いのない事実等によれば、(一)本件会則九条但書は「不可抗力の事態」が発生した場合には、預託金返還時期を延長できると定めていること、(二)被告はバブル経済崩壊とその後の平成不況下でのゴルフ業界の不振をもって本件会則九条但書の規定する「不可抗力の事態」に該当するとして、預託金返還時期について本件延長決定を行い、このことを根拠に原告の預託金返還請求を拒否していることが認められる。

2  ところで、ゴルフクラブの会員にとって、預託金返還請求権は、基本的な権利であり、会則に定める預託金返還時期の据置期間を延長することは、右基本的権利を変更することに他ならないから、延長決定の効力を会員に及ぼすためには会員の承諾が必要であり、承諾していない会員に対し、延長決定の効力を主張することはできないと解するのが相当である。以上のような預託金返還請求権の性質及び本件会則九条但書が「天災地変」と並んで「不可抗力の事態」を例示していることなどを勘案すると、ここにいう「不可抗力の事態」とは天災地変に比すべき事情の変更のあることが必要と解するのが相当である。これを本件についてみるに、バブル崩壊とその後の平成不況下でのゴルフ業界の不振は、たとえそれが被告の予期せぬものであったとしても、預託金返還時期の据置期間の到来は所与の事実であり、その間の経済変動については、当然に考慮しておくべき事柄であるというべきであるから、本件会則九条但書に規定する「不可抗力の事態」には該当しないと解するのが相当である。

3  以上によれば、本件延長決定を承諾していない訴外レインボージャパン及び同社から預託金返還請求権の譲渡を受けた原告に対し、本件延長決定の効力を及ぼすことはできないということになる。

よって、この点に関する被告の主張は理由がない。

三  争点3(事情変更の原則の適用の有無)について

被告は、預託金返還時期に関する本件延長決定は、バブル経済崩壊と平成不況という事情の変更に基づくものであり、事情変更の原則が適用される結果、有効であると主張する。しかし、事情変更の原則が適用されるためには、少なくとも、事情変更の結果、当初の契約内容を維持することが信義則上著しく不当と認められることが必要であるところ、前記二2で判示したとおり据置期間が経過すれば会員が預託金の返還を求めることは当然の権利行使であって、本件契約の当初から予想される事態であるから、少なくとも当初の契約内容を維持すること、すなわち一〇年の据置期間満了後の預託金返還請求を認めることが信義則上著しく不当であるとまでは認めることができない。

以上によれば、本件では、事情変更の原則を適用する前提を欠いているというほかなく、この点の被告の主張は理由がない。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由があるので、これを認容することにする。

(裁判官 難波孝一)

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